タイミング療法
●基礎体温
より妊娠しやすいタイミングで性生活ができるよう排卵日を診断する方法です。
排卵日の2日前から1日前までが妊娠しやすい期間と言われているため、エコー検査で卵巣内の卵胞(卵子が入っている袋)の大きさを測定したり、ホルモン検査を行ったりして排卵日1日前をより正確に予測します。予測される日、またはその前後に性生活を持ち妊娠を目指します。
●人工授精(AIH / IUI)
妊娠しやすい期間に、採取したご主人の精液から運動している精子だけを回収して、カテーテル(細いチューブ)で子宮内に注入して妊娠を試みる方法です。夫婦生活の場合の精子のスタート地点は腟内ですが、人工授精では子宮の奥になりますので、卵子を目指す旅の距離は約10cm短縮され、およそ半分になります。妊娠しやすい期間は、タイミング療法では排卵の1日前ですが、人工授精では排卵日~排卵後24時間以内となります。
人工授精での妊娠例の80%が7回目以内で、それまでの平均治療回数は約4回という統計があります。また、6回程度で累積妊娠率が頭打ちとなりますので、それまでに妊娠に至らない場合は体外受精を検討したほうがいいでしょう。
※ AIHは、配偶者間人工授精(Artificial Insemination by Husband)の略。
※ IUIは、子宮内人工授精(intrauterine insemination)の略。
●体外受精
手術により卵巣から卵子を採取(採卵)し、採取したご主人の精液から運動している精子だけを回収して受精させ、一定期間(2~5日)培養した受精卵(胚)を子宮内に戻す方法です(胚移植)。
受精の方法には、大きく2通りあり、ディッシュ上で卵子に精子を振りかけるようにする媒精(一般的に体外受精とも言われる)と1個の精子を直接卵子に注入する顕微授精(ICSI:卵細胞質内精子注入法)があります。
●凍結胚融解胚移植
受精卵を凍結保存し、適切な周期に融解して胚移植する方法です。
現在、多胎妊娠を防止するため移植する胚は原則1個とされていますので(日本産科婦人科学会会告・日本生殖医学会会告)、移植できる胚が複数個ある場合には、未移植胚を凍結保存します。また、採卵周期が着床に適さない状態にあると判断される時には、すべての胚を凍結保存することもあります。凍結胚は、適切な周期に移植をします。
当院における体外受精の特徴
タイムラプス
胚は、本来なら卵管内で成長し、子宮へと運ばれていきます。しかし、体外受精では、受精卵(胚)は、温度および酸素、二酸化炭素などの濃度が厳密に調整されたインキュベーターの中で培養液から栄養をもらい発育します。これまでは、胚の成長確認、培養液の交換のたびに、受精卵をインキュベーターの外に出さなければなりませんでした。いくら細心の注意を払い、迅速に作業をしても、体外環境では胚にストレスが生じます。
そのため当院では、インキュベータから取り出すことなく胚の成長を確認できるようEmbryo Scope (タイムラプス・エンブリオモニタリングシステム)という機械を導入しています。
この機械は北海道で、当院ともう1院しか導入していません。
これまでのシステムでは、培養状態を静止した状態でしか観察することができませんでしたが、Embryo Scopeにより、受精卵(胚)の成長過程をタイムラプス画像で観察できるようになりました。通常の観察は1日に1回の場合が多いですが、タイムラプス培養では数分間隔で胚のタイムラプス撮影を行うことで、より詳しく成長を確認することができます。
タイムラプス培養は通常の培養器のように受精卵を外に出して顕微鏡で観察を行わず、受精卵を培養器の中に入れたままで観察が出来るため、受精卵を外に出すことによる光曝露やpH変動、温度変化といった受精卵へのストレスを軽減することができます。そのためタイムラプス培養は「卵にやさしい培養」といえます。特に、胚盤胞培養のように長期の培養の際には、非常に有効です。
PIEZO ICSI
顕微鏡授精には従来の卵子を固定し、極細の針を刺し入れするやり方と、ピエゾICSIを使い、微細な振動で瞬時に細胞膜に穴をあけるやり方の2種類があります。当院では、針の刺し入れにより卵細胞膜を壊してしまうことがないよう、ピエゾICSIを導入し卵子にやさしい顕微授精を行っております。
より確かな「顕微授精」Oosight Imaging System
紡錘体は卵子の細胞質内にあり、染色体の分裂や核の分裂に重要な役割を果たしています。顕微授精をする際にこの紡錘体を傷つけてしまうと、染色体異常などの不都合が生じ、受精できない、受精しても発育しないなどの問題が生じることがあります。
顕微授精のシステムにはこの紡錘体を確認する装置がないため、当院ではOosight Imaging Systemを導入し、紡錘体の位置を確認してから顕微授精をしています。これにより、より確かな顕微授精をすることができます。
胚の着床率をあげる「アシステドハッチング」
卵子は透明帯という膜に覆われ、受精後は透明帯の中で分割しながら成長し、胚盤胞へと育ちます。着床するときに、この透明帯を破り、胚が外へ出ることをハッチング(孵化)といいますが、透明帯が厚かったり、硬かったりすることなどから上手くハッチングできないケースもあります。そのため、胚の透明帯の一部を切開、また薄くすることでハッチングを助け、着床しやすいように導いています。
当院の体外受精の成績
● 2014-2017 採卵1回あたりの妊娠率
※採卵1回あたりの妊娠率とは…
体外受精または顕微授精のために採卵を1回行って、①新鮮胚を移植した人、②採卵周期には胚をすべて凍結保存し、あらためて別の周期に凍結胚融解胚を移植した人、③新鮮胚移植と凍結胚融解胚移植の両方を行った人が含まれます。
1回の採卵で、受精卵が1個でも得られた場合と、4個以上得られた場合を分けています。
新鮮肧移植と凍結肧移植では妊娠率に10%以上の差があるため、当院では凍結肧移植を主体に行っております。
● 2015-2017 凍結胚融解胚移植の治療成績
※凍結胚融解胚移植あたりの妊娠率、生産率とは…
採卵して受精した胚を凍結保存し、別の周期に融解して移植した人が含まれます。
● 2013-2015 新鮮胚移植の治療成績
※採卵周期数あたりの妊娠率、生産率とは…
体外受精または顕微授精のために採卵を1回行って、①新鮮胚を移植できた人、②採卵はしたが、卵子はとれなかった人、③採卵して卵子はとれたが受精せず、また受精はしたが良好な胚に発育せず、新鮮胚移植ができなかった人、④たくさん卵子がとれて受精し、良好な胚が多数できたが、卵巣過剰刺激症候群予防の観点から胚をすべて凍結保存したために、その周期には新鮮胚移植をしなかった人が含まれます。
※新鮮胚移植周期数あたりの妊娠率とは…
体外受精または顕微授精のために採卵を1回行って、新鮮胚を移植できた人が含まれます。